『資本主義だけ残った』を読んだ。面白かったので感想を書き残しておく。
著者のミラノヴィッチ氏は経済学者で、世界の不平等の研究や、エレファントカーブを提唱したことで有名らしい。エレファントカーブは新興国の所得が伸び、先進国の中間層の所得は伸び悩み、富裕層はますます豊かになっているという図で、本書には出てこないものの、本書の主張ほぼそのままである。グラフやたくさんの論文を引用しており、長年の経験に基づいた見解を平易に解説したという感じ。グローバル経済と格差についてだいぶ理解した気になれた。
本書はリベラル能力資本主義の代表例としてアメリカ、政治的資本主義の代表例として中国を扱っている。他の国々も出てくるが、この2国の扱いが大きい。そのあたり思ったことをつらつら書いていく。
中国について
本書のきっかけは中国についての考察だったそうで、ところどころに中国との対比が述べられている。現代の中国の経済は明らかに資本主義であって、本書では政治的資本主義と呼んでいる。1980年代を思い出してみると、当時の中国は社会主義国というイメージが強かった。それがいつの間にか経済大国・IT大国になり、巨大企業がいくつも存在しつつ、政治統制も強いという独自の国家体制となっている。本書では、中国が発展するための土台として共産主義がうまく機能し、政治的資本主義として結実したとしている。この説明は感覚的にも納得できた。
中国で政治的資本主義がうまくいっている理由について、古来からの官僚が商人を牽制する文化も影響していると分析されている。政治体制というものは輸入や押し付けではうまくいかず、長期の文化に合致する必要があるのだと思った。
アメリカについて
アメリカはリベラル能力資本主義の代表例として取り上げられている。リベラルとは本来、誰でもどんな職業にでも就くことができる開かれた社会である。が、今のアメリカはそうではなく、金持ち同士が結婚し、有形無形の資本が世代で継承され、金持ちはますます金持ちに、中間層以下は没落していっており、次第にリベラルな社会から遠ざかっている。もはやアメリカンドリームは存在しない。
面白かったのは4.2章で、アメリカでは肉体労働者を使った生産技術の向上にインセンティブはないと説明されているが、本書の出版後、トランプ大統領は工場への回帰を宣言している。これについては、グローバリゼーションにより労働単価が下がると、先進国でも労働量が余り、肉体労働のニーズが生まれる可能性もあるという風に解釈した。
資本主義とグローバリゼーションについて
本書のタイトルについて。共産主義の国々も、次第に資本主義の色が濃くなり、唯一生き残った社会経済システムが資本主義であり、この先もそうではないかという暗示がなされている。
資本主義の力は強大であり、自然とグローバルに拡大していく。資本は雪だるま式に成長し、資本家はますます富み、格差が拡大し、賃金は安くなり、労働者は弱くなっていく。それが資本主義における自然な流れである。特に単純労働においては、労働が交換可能になり、小分けに分断される。継続雇用の必要性がなくなり、賃金は安く、保障もなくなる。労働者は連帯することができず、状況が自然と解消することはない。そしてこのような圧力は、他国からもやってくる。近年の自己責任のギグワークはこのような文脈で発生しつつあると感じた。
その他
本書でアジア、特に中国の台頭は大きく扱われている一方、アフリカは低迷したままで急成長の兆しがないとされている。中国の成功例からすると、これは、現在の政治経済システムの多くが植民地宗主国からの押し付けとなっていて、アフリカの既存の文化に適合していないためではないかと思った。
本書には全く書いていないが、近年、プーチン大統領やトランプ大統領のような、ごく少数の個人による異常な意思決定と、その悪影響を感じることが多い。そしてこうした富や権力の偏りは、超富裕層の発生と無関係ではないように思える。経済学は社会幸福のために存在しているらしいが、資本主義を放置すると、その目的を達成できないというのが本書を読んだ感想である。