65nmから100億光年まで

カーネル読書会に参加。講師は国立天文台の牧野先生。内容としては先月プレゼンしたものと同じだそうで、これ。計算天文学とは何かということに加えて、(主に計算分野の)スーパーコンピューティングの過去・現在・未来がわかるというお得な内容。
GRAPE-DRは発表されたときに注目していたんだけど、なぜそういうチップにしたのかという理由や、実際どういう分野で何ができるのかというのがなんとなくわかった。

GRAPE-DRはシステム名兼チップ名で、DRは(dynamic reconfigurableじゃなくて)data reductionの略とのこと。
1チップに512個のPE(processor element)を内蔵していて、それぞれのPEが256ワードのメモリを内蔵し、加減算や乗算が可能。行列演算なんかが得意らしい。500MHz駆動で500MFLOPSらしいので、1PEが1クロックあたり(単精度で)2演算可能ということだろう。

ちなみに粒子計算(=重力)はGRAPEで、流体計算はスパコンでやるそうで、重力は貫通するので大量の単純計算でよく、流体は相互作用があり複雑なため汎用機が必要とかなんとか。GRAPE-6までは重力計算専用だったのを、なぜ汎用チップにしたかというとASICの設計コストが高騰しすぎて汎用にしないと予算が取れなかったとか。GRAPE-DRは専用チップの性能をほぼ維持しつつ、ある程度の汎用性を持たせた半汎用チップとでもいうべきものらしい。
GRAPE-DRは汎用性が低い反面チップの大部分が演算器なので、Wあたりの演算性能では汎用チップの数倍〜数十倍になる。約65Wだそうで、空冷できるスパコンというのは時代の要請に応えるものなんだと思う。

(最先端プロセスを使う場合の)チップ開発のイニシャルコストはざっと毎年30%くらいのペースで上昇しているようで、プレゼンには予測値はなかったが、2008年には15億円を超えそうな勢いだ。よほどの資金力がないと半導体ベンチャーが起こせないという時代になったようだ。

前半の計算天文学はとてもスケールの大きい話で、シミュレーション対象が100億年分、銀河が回転するのに一周一億年、大きさが数億光年とかそんな感じ。1ステップ1000年とか、太陽の大きさ程度だと誤差の範囲とか、誤差も宇宙スケール。計算精度を何桁か高めても全体の結果にはそう違いがないそうだが、計算能力が3桁くらい上がれば太陽くらいの「小さな」恒星も考慮できるとか。また、地球以外の気象のシミュレーションなんかも気象学ではカバーされないので計算天文学の範疇に入るとのこと。世界は…大きいし小さい。